モリタヤスノブログ3.0

森田泰暢のブログです。福岡大学商学部の教員でヒマラボの代表理事でもあります。思えば遠くへ来たもんだ。

20200813 前期の講義前に考えていたこと(300人向け講義編)

 前期の講義も終わりまして採点中です。提出されたレポートは結構面白いものが多くて、学生みんな頑張ったなと(教職員も!皆さんも!)。未来の自分にも向けて、どう考えてコロナ禍での講義作りをしたかの記録を残しておきます。

学生が抱えていそうな不安

講義は「経営組織論」で、大体300人ほどの学生が履修しています。オンライン講義前、こんな不安あるかなあと考えていたのが下記で。

・通信環境への不安(いわゆる「ギガ」の消費)
・利用デバイスへの不安(一人暮らしかつ金銭に余裕がなくてPCすぐ買えない)
・信頼できる情報への不安(色んな情報が錯綜してわかりにくい)
・自宅での生活習慣への不安(毎日ちゃんと起きれるか問題とオンライン疲れ)
・オフライン講義しかやったことないけど大丈夫か(講義の全体像がわからない)

この辺りは、京都大学MOSTフェローの懇親会での通信環境の話題、経営学系の教員との勉強会で4時間オンラインでやった時の目の疲れ方などもとても参考になりました。

そこに対してまずできることとして、

・通信容量のできるだけ少ないもの:音質を下げた音声ファイル、目への負担を減らす
・利用デバイススマホだけ
・講義用専用サイトの構築:すべての情報を集約、流れや全体像もわかるように
・ライブとオンデマンドの併用:同じ時間にアクセスするきっかけを作る

あたりを押さえてはおこうと。

まずは安心できる状況を作っていかなくてはと思い、それを踏まえて具体的に準備する前に下記のような学生のシナリオを書いてみました。

「授業5分前になりそろそろ準備するかなとスマホを手に取りベッドサイドに身体を預ける。インスタでもちょっと開いて眺めたら3分前、そろそろライブ講義のための配信アプリを開く。最初のライブ講義で前回の質問や課題の解答例を聞いた後に音声講義へ。オンデマンドなのでよりのんびりと。毎週のオンライン講義も疲れるし、ベッドに寝転がったりしながら。スマホで講義専用サイトを開いてレジュメファイルを開く。次は音声講義ファイルも専用サイトから開く。音声は流れているが授業開始BGMが流れている時間があるのでそんなに焦らず資料ファイルへ戻る。寝転がってるのでふと集中が切れることもあるが、また戻せば聞き直せる。講義の残り時間はレジュメの終わりにある課題を。レジュメ資料にあるURLをタップすれば演習への解答フォームへ飛べる。そこに回答を入力し、提出をした」

 このシナリオでいけるならスマホだけで受けなければならない学生でも対応できるだろうと考えました。すべてはここを軸に置いていました。

その他に

・上記の学生の場合はプリンターも無いのでコンビニプリントできる環境は用意する
・コンビニプリント料金がかかるのでレジュメはWordベースのPDFファイル、A4で2枚以内におさめる
・自宅で受けていると親御さんや兄弟姉妹も横で聞いていることを考慮する

あたりも注意しておりました。

 これをもとに20-30分のライブ講義、40分-50分ほどのオンデマンド音声講義、残り時間を課題、という組み立てにし、そして講義専用サイトを作りました(下にレジュメなどのリンクを除いたコピーサイトを貼っておきます)。1回目にできるだけホリスティックな体験ができるようにと意識をしてみました。

site-2432748-9634-5721.mystrikingly.com


 使ったサービスは「Strikingly」です。デザイン性も結構良く、縦長1枚で表現してくれるサイトを作れるので、スマホのみの学生でも見やすかろうと考えました。サイト内には受け方イメージのYoutubeもちょっとだけ作ってみたりしました。過去の音声ファイルやレジュメもここから見られるように。音声ファイルは福岡大学が契約しているBOXに置いておけば、バックグラウンド再生が可能でした。スマホ上で他の資料に切り替えても音声を聴き続けられます。
 そんな感じでスマホに寄せて作ったあと、スマホでの検証とPC環境での検証までやって一旦の準備を終えました。

ラジオのメタファー

 講義をやるにあたって最も参考にしたのはラジオです。これはZOOMでの勉強会やウェビナーに出る中で、「オンラインでの司会の方の動きはほぼラジオDJと同じだな」と感じたり、「音声で40分聴き続けられるのはラジオ番組くらい」だったりと。
 オードリーのANN(これは趣味)やNHKラジオなど色々聴きながら、ひとり語りでリスナーに話しかけるのではなくて、2人の会話している空間を覗いているくらいのほうが聴きやすいと感じました。そこからはゼミの学生に協力をしてもらって、「ZOOMで対話しながら収録するというスタイル」で各講義を対話形式で作っていきました。せっかくなら学生が所属している組織を例に使ってということで、サークルやアルバイト先、ゼミなどの事例を話してもらって理論を併せて説明する形にしていきました。
 (ラジオといえばジングル大事なので、これまたゼミ生に作ってもらいました!Oさんありがとう!)
 

データの活用

 3回くらい講義を作ったタイミングで、まとめて15回分の講義を作るのをやめました。毎回感想をもらうので、そのデータを活用するほうがいいなと。「オンライン化でも受けてよかったという実感」に繋がるアウトカムに向けて、毎回得られるデータをもとにアップデートをかけることにしてみました。リサーチを踏まえた変更を加えながら作っていけると、学生も自分の意見が反映される参加感を得られるかもしれないなとも思いつつ。

うまくいったこと、いかなかったこと

・うまくいった点

 アンケート結果はちょっと怖いですが、前向きな感想や受けやすかったという声も多く、295名学生が受けていましたが、途中離脱した学生(課題を出し切れなかった学生)が5名ほどに抑えられました。(「なんだか受けやすい」という感想が一番うれしかったです)

 他は「通信容量を下げる」「講義ネーム」「データの活用」でしょうか。音声ファイルは40分ほどで18MB程度にでき、ライブ配信も短めにすることで可能な範囲での通信容量への配慮はできたかなと思います。
 ラジオのメタファーでやるなら面白いほうがいいかなと、途中から、質問や感想をくれる際に「ラジオネーム」のような「講義ネーム」を書いて送ってもらうことに。これまた笑ってしまうような名前のものが多く、ライブ講義に適度な「遊び」が生まれました。(「講義ネーム、だっきゅうゴリラさんからの質問です、」みたいなノリで)

 その中で「うちの母も横で聞いていて」という感想はやはり出てきました(うちのインコも聞いていて、もありました。ペット向け、需要ありますでしょうか)。毎日がオープンキャンパスの精神でやってみて良かったです。

 感想で上がる声をデータとして使い、随時反映していけたのは良かったです。「課題フォームから提出されたか不安」、「週にこのくらいの件数の課題が出ていて少し辛さがある」、に対しては「自動返信の追加」、「課題納期の延長」を対応したり。対話形式の音声も、最初ゼミ生は良かれと思って相槌を増やしたりしてくれていたのですが、私の声と重なって少し聞きづらいという感想もくれていたので4回目くらいからはそこを修正できたりして、柔軟性を残しておいてうまくいったかもしれません。また熊本を中心とした豪雨災害も起き、対象学生へも柔軟な配慮をすることができました(これは結果論ですね)。 

・うまくいかなかった点

 当初はスマホかつ普段触れているアプリがいいだろうと思い、Youtube Liveを考えていました。これは初回講義でiPadの画面をカメラに向けたところ突然BANされてしまいました。BANをちょうどAIでの判定に切り替えたタイミングだったこともあり、引っかかってしまったのかもしれません。ただ、うまくいかなかった場合にもうひとつWebexの導線も作っておいたので、8割ほどの学生は参加できていました。その後一斉連絡で問題ないことも伝え、また初回かつオンデマンドにしておいたことも幸いでキャッチアップしてもらえたのではないかと思います。2回目からは即辞めてWebexに統一しました。複数導線大事。

 Webサイトもぎりぎりで更新してしまうと更新の反映がされていない(ブラウザのせいかなとは思うのですが)学生もいて、個別対応が少し出たところも。これはライブ講義の時間を作っていたので反映されていないときにはそこで申し出てもらうことで対応するようにしていました。

 以上が考えていたことでした。そこそこ大人数の講義としてやっていたことですので、演習系や実験系、語学を担当される先生方は更なるご苦労があったと思います。おかげで音声ファイルの編集も慣れてきたり、副産物としてポッドキャストも始めてみたり、これからゲーム実況の配信でもしようかなと思ってどんどんとマイクやらヘッドセットやら増えています。
 コロナ禍、とても大変ですが折角なので後期もできることやってまいります。学生とはもちろん、会いたいですけどね。

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